中小企業から大企業への転職で失敗しないための3つの注意点
キャリアのスタートは新卒の時の採用マーケットの状況に左右されてしまいます。
リーマンショク後には有効求人倍率が0.5を下回っていたため、企業規模を問わず就職することを目標に仕事を探していた人が大半でした。
ところが、2016年11月の有効求人倍率は1.41まで上昇し、新卒の時に気になっていた大企業の中途採用広告を見かけることも増えてきました。
不況で中小企業以外に就職の選択肢がなかった人にとっては、就職活動をやり直すチャンスにも見える採用マーケットですが中小企業から大企業への転職は依然として難しいという話をよく耳にします。
そこで、今回は中小企業から大企業への転職を考えるときに押さえておきたい3つのポイントをまとめていきます。
今回のトピック一覧
1.待遇と仕事への満足度は比例しない
2016年の中小企業白書にて、厚生労働省発表の「賃金構造基本統計調査」をもとに過去20間の給与推移が発表されています(従業員300名以上=大企業、その他=中小企業)。
(出典:中小企業白書2016 p.50 「規模別給与額の推移」)
(1)平均的な待遇では中小企業を圧倒している
2014年の正社員給与の比較では年収ベースでは約100万円の差(月給8.3×12ヶ月)があり、直近20年の給与推移を見た場合には、中小企業は約25万円の上昇に対して、大企業は約50万円と倍近い差があリます。
この比較は月給をもとに計算しているため、賞与やその他手当を含めると差はさらに広がります。
また、収入面だけでなく、支出面でもメリットがあります。
もし、所得水準が高い健康保険組合に加入していれば、協会けんぽよりも保険料率が低くなり、健保オリジナルのサービスも受けらます。
さらに、社食やフリードリンク等のオフィスサービスが充実した会社であれば、これだけで月間で万単位で節約できます。
これらの点が重なると、可処分所得では収入以上の差がついてくるのが実情です。
(2)待遇は必ずしも仕事への満足度に比例しない
高水準の給与は魅力的ですが、キャリアへの満足度を高めるためには「仕事にやりがいを感じているかどうか?」の方が大切です。
特に、転職してから社風や仕事の進め方との相性のミスマッチに気づくということがないよう、待遇以外の情報を確認することが重要です。
2.大企業勤務で直面するキャリアの2大リスク
(1)高い専門性が身に付くがキャリアの選択肢が意外に狭い
ここではどの会社でも共通で発生する採用と給与計算を例に、大企業と中小企業でキャリアがどのように分かれていくかを見ていきます。
① 大企業は専門バカになるリスクあり
社員数が1万人を超える規模になると以下のように業務が細分化していき、各分野のスペシャリストでチームを組みます。
そのため、採用プロセス全体を把握することよりも、特定の担当分野のなかで業務改善が求められます。
- 例1)採用関係
- 新卒採用担当:母集団形成担当、面接担当など
- 中途採用担当:転職エージェント担当、ダイレクトソーシング担当など
- 例2)給与計算関係
- 給与計算担当:月例給与担当、年末調整担当
- 社会保険担当:加入喪失の手続きから給付金等まで全般を担当
このように個別業務に特化するため、ゼネラリスト志向が強い人にとっては、大企業は合わないでしょう。
また、経営者と近い距離で仕事をしたい、地域に根ざした活動をしたいといった場合も中小企業やベンチャー企業のほうがマッチするでしょう。
② 中小企業は何でも屋さんが求められる
社員が30名程度の会社の場合は、社員1名で人事全般を担当するのが当たり前です。
そのため、人事全般の実務経験・知識がないと業務が回せない状態になります。
給与計算や社会保険の手続きを社労士事務所にアウトソーシングしている場合でも、専門知識がなければベンダーマネジメントが出来ません。
中小企業やベンチャー企業のデメリットは大組織での経験が積めない点です。
そのため、実務経験が豊富でも大組織のワークフローを運用、構築した経験がないことを理由に大企業への転職のハードルは高くなります。
このように大企業、中小企業(ベンチャー企業含む)は、求められる素養が全く違うため、待遇の良し悪しだけで転職を決めるのは非常に危険です。
(2)安定を捨てる覚悟がないと転職に踏み切れない
大企業で勤務する複数の知人は、今の環境では将来のキャリアが不透明だと感じていても、転職に踏み切れずにいます。
特に財閥系の大企業ともなれば、ネームバリューが高く、多少の不満があっても、安定した待遇を捨てるリスクの大きさを考えて二の足を踏んでしまうことがあります。
このケースは、仕事への充実感よりも生活の安定を優先するあまり、将来的なキャリアアップの可能性に対して思考停止状態になっています。
ここで気を付けなければならないのは、仕事の満足度は、安定した待遇では得られないことです。
実際に以下の調査結果がこの現実を物語っています。
「年収が高いほど幸福度が高くなることは、様々な研究でわかっている。今回の調査でもその傾向はあった。しかし、300万円父さんの中にも、幸福度70点以上が半数近くいることも判明。一方、1000万円も稼いでいるにもかかわらず、幸福度が70点未満の不機嫌父さんは3割強だった。」
(出典:PRESIDENT Onilne「 年収1000万vs300万「人生とお金の満足度」1000人調査」)
一度、高いネームバリュー、高水準の社内サービスや高年収を経験すると同等の水準が得られないことにストレスを感じやすくなってしまいます。
その結果、肝心の仕事の中身や生活全体の満足度を犠牲にしやすくなる点には注意が必要です。
3.大企業への転職に立ちはだかる2つの壁
(1)転職は同一規模内でのスライドが基本
中途採用は「自社不足する経験スキルを外部から調達する」ことが目的であるため、似た社風や社内システムを持った会社の人を採用したいというのが採用企業の本音です。
大企業は国内外に複数の拠点をもっているため、イントラネットやコミュニケーションツールを複合的に活用してリモートでも協働できる仕組みが構築されています。
特に、グローバルに展開するIT企業では、仕様のモバイル端末を利用して社内システムにアクセスするBYODを導入していたり、Slack(※1)の活用例が増えており、ITリテラシーの高さが求められます。
どれだけ経験が豊富でも社内のリソースを活用できなければ結果を出せないため、同一サイズの会社の動きかたを知っていることは重要な要素になります。
(2)新卒採用で大企業の採用ニーズは満たされている
中小企業白書に掲載されている、「大企業の大卒予定者求人数・就職希望者数の推移」を参照すると依然として大企業の採用ニーズは新卒採用時に満たされていることがわかります。
(出典:中小企業白書2016 p.49「大企業の大卒予定者求人数・就職希望者数の推移 」)
横のスライドが転職の基本パターンですが、大企業の求人が充足していなければ、募集要件をゆるめて大企業での勤務経験を問わなくなる可能性がありますが、依然としてチャンスは限定的と言えるでしょう。
まとめ
現在は、シャープや東芝の事例が物語るように、一昔前の優良企業でもリストラが当たり前に起こる時代です。
中小企業から大企業に転職することで得られる待遇やネームバリューは魅力的ですが、会社に一生しがみつくことはできないのが現実です。
そのため、あなた自身のキャリアアップのために「大企業に入るメリットはあるのか?」を明確にしておくことが重要です。
中小企業やベンチャー企業が新規技術で大企業をリードすることがあります。他にも、現在活発になってきている地方創生も地場の中小企業の活躍なしに実現できない大きなテーマの一つです。
これらの点を十分に考慮したうえで、転職先を選ぶようにしましょう。
(※1)Slackに馴染みがない方は「SkypeにはないSlackの便利な8つの機能」がわかりやすかったので一度ご覧いただけるとイメージが湧きやすいと思います。
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